「京の老舗 食彩めぐり」奥嵯峨野 萱葺屋根の鮎茶屋    平野屋

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PHP研究所より発行
「PHPほんとうの時代」2008年8月号掲載
私のエッセー「京の老舗 食彩めぐり」より

奥嵯峨野 萱葺屋根の鮎茶屋 平野屋

京都嵯峨野。最も北に位置する鳥居本(とりいもと)は
愛宕(あたご)神社のお膝元。
一の鳥居の真下に
「あゆよろし」の提灯看板を掲げた「平野屋」があります。

苔むした萱葺屋根の建物、床几に緋毛氈(ひもうせん)、
屋号を染め抜いた暖簾が、創業四百年の時を経て、
今も遠来の旅人を昔そのままに迎えてくれます。

平野屋の歴史は、火伏せの神様愛宕詣での参詣客相手の茶店と
して江戸時代初期に始まります。
創業以来の名物が「志んこ」という米粉の団子。
十四代目女将井上典子さんが、おくどさん(竈)で薪を焚いて、
毎朝蒸し上げます。
七月三十一日の愛宕神社千日詣(せんにちまいり)の日は、
志んこ目当ての参拝客で大賑わい。夏の京の風物詩です。

平野屋は「鮎の茶屋」と呼ばれることもあります。
旅人相手にお茶や団子、草鮭(わらじ)、杖などを商う傍ら、
保津川(ほづがわ)の鮎を京の都に卸す鮎問屋だったからです。

代々鮎を見て育ってきただけに鮎の目利きはまさに名人級。
当然ここで出される鮎づくしは、
食通に「日本一」といわしめたほどの絶品が並びます。

塩一振りにも秘伝の技が……。
ヒレや尾に化粧塩は打ちません。
活けの天然鮎は、備長炭の強火に炙られるとヒレを立て、
尾を動かして気張った格好になります。
これが、正真正銘の「踊り串」。
四百年、平野屋は化粧塩をして鮎を焼いたことは一度もありません。

秘伝の二つ目は清流を引き込んだ生け簀。
中は硯石(すずりいし)という真っ黒な石で囲っています。
平野屋では天然の活け鮎をその日に使わず、
わざわざ一晩置きます。
「運ばれてくたびれた鮎は味が落ちます。
 暗く静かな生け篭で疲れを取り、砂を吐かせます。」
鮎一筋のこだわりです。

部屋で「志んこ」の懐かしい味を楽しんでいると、
鮎づくし料理が運ばれてきます。
まずは「鮎の背越(せご)し」。美しく銀色に輝く若鮎を
薄くブツ切りにした、いわば骨付きの刺身。
箸につかんで口に近づけると何とも清々しい香りが。
これぞ鮎が「香魚」と呼ばれる由縁。
噛めば、プチプチと背骨を噛み砕く爽快感。
鮎が甘い魚であったことに驚きます。

添えられる苦玉(にがだま)と呼ぶ肝も、めったに味わえない珍味。
「ええ苦さでっしゃろ」という女将の声に思わず納得の酒の友。

主役の塩焼きの旨さは言うに及ばず。
ふわりと口の中に広がる鮎は、頭からかぶりつくに限ります。
鮎粥も腹に優しい一品。
その他、コースによっては鮎飯に鮎の押し寿司、田楽と鮎三昧。
十月の「落ち鮎の塩焼き」は、鮎の季節を締めくくる絶品です。

平野屋の女将と料理人は、鮎一筋に四百年も生きて来ました。
「あゆよろし」。わずか五文字の看板を掲げるために……。
毎年足を運ぶ常連客の笑顔を励みに。


「ぷらすあるふぁ情報」
鮎コース料理は昼8,000円~、
夜15,000円~(税・サ別)。

鮎の背越しは、
活けの若鮎を骨ことブツ切りにした野趣あふれる刺身。
添えられる苦玉は肝。若鮎が捕れる夏頃までの旬味。

愛宕名物「志んこ」は、
上新粉(米粉)をおくどさん(竈)で蒸し上げた団子。
鮎のコース料理には必ず付く平野屋こだわりの味です。
鮎粥は白粥に鮎の身を落とし、ほのかに鮎の香りがする一品。
自家製の梅干しとともに、さっぱりと。



平野屋
京都市右京区嵯蛾鳥居本仙翁町16
電話075-861-0359.
営業時間:11時~21時
定休日:無休
交通:JR嵯峨嵐山駅、京福・阪急各嵐山駅下車。
京都バスで約10分、鳥居本バス停下車。徒歩5分。

※9月号は2008年8月18日 全国書店で発売です。
「京の老舗 食彩めぐり」のテーマは、

「京の夏の醍醐味 鱧(はも)づくし 堺萬」です。


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